eスポーツのパフォーマンスを保つために
新世代のスポーツとして注目を集めているeスポーツですが、その特性ゆえにプレイヤーたちは既存のスポーツとは違う悩みを抱えています。
eスポーツでは長時間モニターを見てゲームをしますが、長いときには一日に14時間も画面の前に座ることがあるといいます。長時間の座位は腰痛を引き起こすほか、プロゲーマーともなると過酷な環境から以下のような症状になることもあり、悩みは尽きません。
・長い練習による手首や腱の痛み
・目を酷使することによる眼精疲労
・勝敗が人生に関わるというストレス
・遠方や海外への移動による時差ボケ
他のスポーツ選手と同様に、eスポーツ選手たちも、より高いパフォーマンスを保ちながら、より長く活躍したいと考えるでしょう。
今回は、eスポーツプレイヤーが抱える不調を取り除き、予防することで、長くパフォーマンスを保つための体づくりについて管理栄養士が解説します。
症状別の食事
1.目の疲労に効く栄養素
長時間画面を見ることによる目の疲労は、多くのプレイヤーを悩ませている問題かと思います。
目の疲れは頭痛や肩こりを招くこともありますが、日ごろからバランスのとれた食事を摂ることで、その症状を緩和し防ぐことができます。また、疲れ目には目の休養もとても大切です。
たとえば、パソコンを使うときには画面までの距離を50~70㎝に保ち、一時間に10分程度の休憩をとり、遠くを見るようにします。温かいタオルと冷たいタオルを交互に目にあてて血行を促進するのも効果的です。
ビタミンA
目のビタミンともいわれるビタミンAは、赤い野菜や果物に多く含まれます。
ビタミンAは感光分子ロドプシンという成分の主成分で、目の粘膜を潤し網膜を健康に保ちます。脂溶性なので油脂を一緒にとると吸収力が高まります。
ビタミンAを手軽にとれる食品としては、トマトジュースがおすすめです。オリーブオイルを少したらして飲むと吸収率がよくなり、さらに効果が上がります。
カロテン
植物性食品に含まれるカロテンは体内でビタミンAにかわります。
野菜ではニンジンに多く含まれています。ニンジンとトマトを含む野菜ジュースであれば、カロテンとビタミンAを摂取することができます。
また、果物ではコンビニなどでも手軽に手に入るドライマンゴーがおすすめです。ただし、糖質も多いため食べすぎに注意しましょう。
アントシアニン
ブルーベリーや黒豆などに含まれるアントシアニンは、感光分ロドプシンの再合成を活性化します。
生のブルーベリーや黒豆を直接とるのは難しいと思いますので、サプリメントを上手に活用するといいでしょう。
2.反射神経とアントシアニン
目から得た情報を素早く全身に伝え、的確に体を動かす動作、この運動を反射神経とよびます。コンマ1秒やフレーム単位の戦いが求められるeスポーツの世界では反射神経は勝敗を決める重要な要素です。一般的に長時間目を使うと目が疲労し反射神経が低下します。
ハイレベルなプレーを長く維持するためには、この反射神経をいかベストに保つかが鍵ですが、この反射神経の維持にブルーベリーに含まれるアントシアニンが役立つという報告があります。
アントシアニンと反射神経の関係を調べる実験で、アントシアニン入りの食品を摂取した後に運動をし、その後、反射神経を測定した群は、アントシア二ンなしの群に比べ反応時間の低下を軽減したという実験結果が報告されています。(みらい研究所調べ)
アントシア二ンは単に目を保護し守るだけではなく、反射神経にも役立つということですから、積極的に摂りたい栄養素です。
3.腱鞘炎に効くコラーゲン
長時間のキーボードやマウス、コントローラーの操作は手・指・手首の不調を引き起こします。
これらは腱鞘炎(けんしょうえん)とよばれます。腱鞘炎の炎症部位である腱や関節は血流が流れにくいため、痛くなってからでは治りにくい箇所です。予防や保護の意識を持ち、未然に防ぎたいですよね。
腱鞘炎とは、骨と筋肉をつないでいる「腱」と腱を包む「腱鞘(けんしょう)」と呼ばれる組織に摩擦が生じることによって炎症が生じる病気のことです。腱や腱鞘などは、コラーゲン繊維が材料になっています。そのため食事からコラーゲンを補充し、満たしてあげることが必要です。
コラーゲンは鶏の手羽先、牛スジ、魚の皮や骨、ゼラチンなどに多く含まれています。コラーゲンは過熱すると溶け出る性質があるので、溶けだしたコラーゲンごと食べられるスープやシチューなどの汁物に調理するのがおすすめです。
また、コラーゲンの合成にはビタミンCが必要になるため、ビタミンCが豊富な果物や野菜なども一緒に摂りましょう。
4.腰痛に効く栄養素
長時間のゲーム練習を行うゲーマーにとって腰痛は大敵。
腰痛の対策として、腰を作っている骨である腰椎やそれを支える筋肉を丈夫な状態に保つことが大事。骨や筋肉を作る元となる、以下のような栄養素をしっかり摂取しておく必要があります。
・コラーゲン
・カルシウム
・ビタミンC
・ビタミンD
骨の材料というとカルシウムが思い浮かぶと思いますが、骨のがっしりとした強さは、コラーゲン繊維(たんぱく質)によるものです。骨の土台となるコラーゲン繊維にカルシウム、マグネシウム、ナトリウムなどのミネラルが付着し、強い骨を作り出しています。そして、ビタミンCが土台と周囲をつなげる接着剤の役目を果たしています。
丈夫な骨を作るには、たんぱく質とカルシウム、そしてビタミンCを摂取する必要があります。また、ビタミンDは腸管でのカルシウムの吸収を促進し、カルシウムが骨に沈着するのを助ける働きがあるので、併せて摂るとより効果的です。
カルシウムは、牛乳や乳製品、骨ごと食べられる小魚、乾物(高野豆腐・干しシイタケ・切干大根など)に豊富に含まれています。青菜類(モロヘイヤや大根の葉)や大豆製品にも多く含まれています。
カルシウムは体内に吸収されにくい栄養素の一つですが、その中でも乳製品は吸収率が高い食品です。ビタミンCを含む果物や野菜と、ビタミンDを含む卵やサンマ、鮭、干ししいたけと合わせて摂取しましょう。
5.リンの摂取に注意
これらの栄養素とは逆に、腰痛などの際にはできるだけ摂取を避けたい栄養素がリンです。
リンを過剰に摂取するとカルシウムの吸収を阻害してしまい、回復を遅くしてしまう危険性があります。リンが多く含まれる食品は、加工商品やインスタント食品、炭酸飲料や、スナック菓子です。これらの食品の摂りすぎには十分に注意しましょう。
また骨や筋肉を強くする食事をしたうえで、腰痛改善のために行うべきことは、ずっと同じ姿勢でいないことです。1時間に一度は席を立ったり、トイレにいくついでに軽くストレッチをすると良いでしょう。
6.燃え尽き症候群
燃え尽き症候群とは、モチベーションを高く保っていた人が、突然やる気を失ってしまう症状です。その原因は集中して頑張りすぎることが挙げられます。
プロゲーマーなどハイレベルな戦いに身を置くeスポーツ選手が、厳しいトレーニング、トーナメント大会やリーグ戦の過酷さのため、燃え尽き症候群になってしまう可能性は大いにあります。
その予防として、安らげる趣味を持ちストレスの原因から離れる時間をもつこと、運動をすること、十分な休息をとること、そしてバランスのとれた食事を摂ることが挙げられます。
食事は私たちの考え方に影響を与え、それによりさまざまな場面でのパフォーマンスを左右するという調査結果があります。手軽に食べられるファストフードやスナック菓子、清涼飲料水は便利ではありますが、私たちの体や健康な精神を維持するために有効なものとは言えません。
どんなに忙しくても、栄養のある食事と十分な睡眠で、体をケアすることが大切です。
7.幸せホルモン「セロトニン」
幸せホルモンといわれるセロトニン。セロトニンは脳内の神経伝達物質のひとつで、ストレスに対して効能のあるホルモンです。
セロトニンは、トリプトファンと呼ばれるアミノ酸から作られます。トリプトファンはアミノ酸であるため、大豆製品や乳製品、カツオやマグロなどのたんぱく質に含まれますが、ナッツやバナナからも摂取することができます。
また、日光をあびると脳内でセロトニンが分泌されます。起床直後から30分以内に日光を浴びると効果的です。
朝にバナナを入れたヨーグルトを食べ、日光をしっかり浴びてみてください。セロトニンが十分に分泌されるので、ストレスに対抗することができるでしょう。
時差ボケへの対処
時差ボケは時差が5時間以上ある地域に急速に移動すると起こりやすくなります。遠方の都市や海外の試合に出る場合、高速鉄道や飛行機を利用するため時差ボケになりやすい状況ですよね。
時差ボケになると、睡眠障害や、眠気、疲労感や倦怠感などの症状を引き起こします。それらの症状を軽減させるために有効な方法をご紹介します。
空腹の状態(15時間~20時間)を作って食事をすると体内時計がリセットされますので、その後の食事を現地の朝食の時間に合わせると時差ボケが軽減できるといわれています。
食事を朝食に合わせられない場合でも、目的地に到着したらすぐ食事をすることで、新しい時間帯に適応できるようになります。さらに、体内時計である概日リズムは光によって調整されているので、現地の朝の時間に光を浴びることも有効です。
まとめ
eスポーツ選手やゲーマーがより良いパフォーマンス保つことについて、食事からのアプローチをメインに紹介しました。
不調や痛みを未然に防ぐことができれば、長く高いレベルで競技を続けることができますよね。また、食事により体や心の基盤がしっかりと形成されていれば、たとえ心身が不調になっても早く回復できます。
そのためには食事管理をはじめ、練習メニュー、エクササイズ、休息、睡眠をうまくセルフマネジメントし、自分の精神状態や健康状態を安定させ、よりよい状態になるように改善を図っていくことが大事です。心身が健康であってこそ良いプレーができるのです。
毎日ひとつでも自分を幸せにする要素を取り入れて、ライフスタイルを充実させましょう。健康的な栄養状態と精神状態を維持することが、より長く競技生活を続けていく秘訣になるのではないでしょうか。
特定保健指導、企業にて学生や子供を対象とした食育指導、料理教室の調理員、食に関するイベントの企画アシスタントなどを務める。 eスポーツの栄養に関する執筆や食事指導のご相談ライター:AZUSA(管理栄養士)
現在は、栄養や食に関する執筆活動をしながら薬膳や発酵食品について研究中。eスポーツプレーヤーを栄養と食の面からサポートする記事をお届けします。
参考・引用文献
・鈴木志保子著「スポーツ栄養学」
・石川三知著「スポーツ選手のための食事」
・柳沢香絵著「アスリートのためのスポーツ栄養学」
・吉田企世子著・松田早苗監修「あたらしい栄養学」