管理栄養士が考えるeスポーツの試合に役立つ栄養素や食べ物
頭脳のスポーツといわれ、世界各国で盛り上がりを見せているeスポーツ。日本のコンテンツ市場において今後の成長を期待されています。オリンピック競技種目への採用も検討されているなど、未来の若者を育てる競技としても将来性を期待されています。
そのeスポーツの最前線で戦うプロゲーマーやプロeスポーツ選手たちはまさにアスリート。種目によって、0.1秒単位での判断を迫られるゲームや、大会トータルでの試合時間が10時間以上にも及ぶゲームもあります。
そんな厳しいプロeスポーツの世界においては、いかに集中力を高め切らさないか、そして最大のパフォーマンスを発揮できるよう試合に臨めるかが重要なカギになります。この重要なカギをにぎるひとつの要素に、食事管理があります。
今回は、eスポーツの試合で選手が最大のパフォーマンスを発揮にするためにどのような栄養素や食べ物が役立つのかを管理栄養士が考えてみました。
eスポーツの試合に有効な栄養素と食べ物
1.糖質(ブドウ糖):脳のエネルギー補給
糖質は、おもに炭水化物といわれる三大栄養素に含まれる栄養素です。炭水化物を分解し、より体内に吸収されやすい小さな形状にしたものがブドウ糖であり、脳が直接使うことができる唯一のエネルギー源です。
糖質の働き
不足すると疲れやスタミナ切れを起こすことがあり、集中力も続かなくなります。脳への栄養が充分にいかず、ボーっとしてしまうこともあります。
頭脳のスポーツといわれ、脳を酷使するeスポーツにとって非常に大事な栄養素でしょう。
また糖質は、血糖値に直接関与する栄養素です。この血糖値は脳や体に作用し、気持ちや体力などの生命活動に影響を与えます。上手に糖質を摂り、血糖値をコントロールすることはとても重要です。
糖質を多く含む食べ物
ご飯・パン・麺(そば、うどん、パスタ等)イモ類・とうもろこし・バナナ、チョコレート・ラムネ
糖質にはいろいろな種類があり、ブドウ糖に分解されてエネルギーになるまでにかかる時間は異なります。
ご飯はでんぷんをブドウ糖に分解するため、消化吸収に時間がかかってしまいますが、その反面腹持ちが良いというメリットがあります。
バナナやチョコレート、ラムネは、ほぼブドウ糖で構成されているため、消化吸収が早く即エネルギーに変わります。
それぞれの特徴を知り、場面にあわせた食べ物を選択することが、eスポーツの試合に向けて脳のパフォーマンスを最大にするカギになりそうですね。
2.ビタミンB群:糖の代謝を助けエネルギー補給をサポート
脳がエネルギーにできる唯一の栄養素がブドウ糖ですが、実はブドウ糖だけを単体で摂取してもブドウ糖から十分にエネルギーを得ることはできません。そこで必要となる栄養素がビタミンB群です。
ビタミンB群の種類
ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンB12、葉酸などがあります。
ビタミンB群の働き
ビタミンB群は代謝のビタミンといわれており、私たちが生きるための源であるエネルギーを作るために必須の栄養素です。
これらは、それぞれが関係しあい協力して働いているため、まとめてビタミンB群と呼ばれています。
ビタミンB群が欠乏すると、ブドウ糖から十分にエネルギーを生産できなくなってしまい、食欲不振、疲労、だるさなどの症状があらわれます。
ビタミンB群を多く含む食べ物
栄養素 | 多く含む食べ物 | 備考 |
ビタミンB1 | 豚肉、豆類、玄米、牛乳 | |
ビタミンB2 | 肉、卵黄、緑黄色野菜 | |
ビタミンB6 | レバー、肉、卵、牛乳 | |
ビタミンB12 | レバー、肉、魚 | |
ビオチン | レバー、卵黄 | |
パントテン酸 | レバー、卵黄、豆類 | 動物性たんぱく質であれば豚肉や牛肉や卵黄、レバーに多く含まれます。 |
ナイアシン | 魚介類、肉、海藻 | |
葉酸 | レバー、豆類、葉野菜 | 植物性のたんぱく質であれば豆類(納豆・豆腐・揚げ・味噌・豆乳)に多く含まれます。 |
eスポーツの試合前には、朝食や昼食で卵料理・焼き魚・納豆・味噌汁など上手に組み合わせて、幅広くビタミンB群を摂取すると良いでしょう。
3.カフェイン:眠気覚まし、疲労回復
緊張感を持ってeスポーツの試合に臨んでいても、長時間の集中の後には疲労や眠気に襲われるもの。そんなとき活躍する栄養素がカフェインです。
カフェインの効果
カフェインの効果には、頭が冴え眠気を覚ます覚醒効果、体の疲労感を軽減させ長時間の活動を可能にする疲労回復効果、さらには痛みを抑える鎮痛効果などがあります。
カフェインを含む食べ物
カフェインはコーヒー豆や、カカオ豆、茶葉に含まれる天然の成分です。
そのため、コーヒーをはじめ、紅茶にはもちろんのこと、緑茶・烏龍茶にも含まれています。また、カカオ豆から作られるチョコレートやココアにも、カフェインは含まれています。
eスポーツ向けのエナジードリンクが発売されていますが、それらにもカフェインが多く含まれています。眠気覚ましや集中力強化に特化した商品には、コーヒーの何倍ものカフェインが含まれているものが多くあります。
4.アミノ酸:ストレス軽減、コンディション調整
たんぱく質は、筋肉・内臓・皮膚・爪・毛髪など、人体の部分を作るのに欠かせない栄養素であり、おもにアミノ酸からできています。
人間に必要なアミノ酸は20種類あり、チームプレーで効果を発揮します。そのため、幅広いアミノ酸を食品からバランスよく摂取することが大切です。
アミノ酸の効果
アミノ酸には、脂肪燃焼効果、体力アップ、脳機能活性効果、ストレス軽減、リラックス、安眠効果など幅広い効果があります。
疲労回復や脳や身体のコンディションを整えるのにもアミノ酸は重要な役割を果たしており、eスポーツに限らずアスリートの心身を整えるために積極的に摂取されています。
アミノ酸を含む食べ物
アミノ酸を豊富に含む食材には、動物性たんぱく質の食材(肉・魚・乳製品・卵)、植物性たんぱく質の食材(豆類・豆腐・納豆)などがあげられます。
それぞれ含まれるアミノ酸の種類が異なるので、さまざまな食材を過不足なく組み合わせて摂取することで心身を整えましょう。
5.アントシアニン・ルテイン:眼精疲労の緩和
目を酷使するeスポーツですが、目をケアするためには「アントシアニン」と「ルテイン」が良いとされています。
アントシアニンは、ポリフェノールの一種である青紫色の天然色素。植物を有害な紫外線から守る働きをしています。ルテインは黄色の天然色素で、人体にもともと存在している成分です。
アントシアニンの効果
アントシアニンは強い抗酸化作用を持ち、目や体の老化防止に欠かせない栄養素です。また、血流を促進して目の筋肉の緊張をほぐす効果があります。
eスポーツによる眼精疲労は、アントシアニンの摂取により改善が期待できます。
アントシアニンを含む食べ物
ブルーベリーやカシス、なす、ぶどうに含まれます。
これら全ての食物の共通点は「紫色」ということ。アントシアニンは濃い紫色をした色素なのです。
気軽に摂取することが難しい食材達なので、サプリメントで摂取をするのが効率的かもしれませんね。
ルテインの効果
ルテインは目の中の水晶体と呼ばれるレンズ部分や、その奥にある黄斑という部分にあり、目を守る働きをしています。ルテインは目の酸化を防ぎ、さまざまな目の病気の対策に効果があるとされています。
また、波長の短い光を吸収するルテインは、パソコンやスマートフォンの画面から発せられる「ブルーライト」と呼ばれる青色の光や、紫外線を吸収する性質があります。eスポーツ選手の目を有害な光線から保護する働きをしてくれます。
ルテインを含む食べ物
ほうれん草・かぼちゃ・にんじん・ブロッコリーなどの緑黄色野菜をはじめ、卵黄に含まれます。
現状では、ルテインの不足による欠乏症の心配はないと考えられていますが、人の体内では生成されない栄養素ですので、食事やサプリメントから取り入れる必要があります。
食事のタイミングと摂取のポイント
1.パフォーマンスを最大にする食事のタイミング
eスポーツの大会で、練習の成果を充分に発揮するためには、どのようなタイミングでどのような食事を摂ればよいのでしょうか。
当日の朝食は、試合開始の2~3時間前までには済ませておきましょう。食べるものの内容にもよりますが、胃の中のものがほとんど消化されるまで、だいたい3時間といわれているためです。
難しい場合、朝食はフルーツや具入りおにぎりなどを軽めに取って、合間に吸収が早いスポーツドリンクやゼリー飲料などを摂取することをおすすめします。
どの時間に脳をフル稼働させたいかを逆算し食事を摂取することが、脳にも体にもしっかりとエネルギーがいきわたり、ベストなコンディションでeスポーツの試合に臨む重要なポイントになります。
2.食事の摂取のポイント
血糖値のコントロール
脳に必要な栄養源がブドウ糖でも、糖質ばかりを摂取することはおすすめできません。血糖値の急上昇と急降下(血糖値スパイク)を起こしてしまい、食後に強い眠気や倦怠感、イライラを引き起こします。
また、朝食を抜いて空腹時間が長い状態で昼食を食べると、急激な血糖値の上昇と急降下(血糖値スパイク)がおこります。昼食後、集中力の低下や眠気が出るのはこのためです。
このような状態を招かないためには、血糖値をコントロールするために「炭水化物(糖質)を戦略的に摂取する」ことが必要です。
バランスよく食べる
「炭水化物(糖質)を戦略的に摂取する」とは、どのようなことでしょうか。それは、さまざまな食材をバランスよく食べるということです。
朝食を例に考えてみましょう。和食の献立であれば、ご飯と納豆に焼き魚、そして野菜入りのお味噌汁。
洋食の献立ならば、パンと卵にベーコン、牛乳、サラダ。炭水化物以外にタンパク質(アミノ酸)や食物繊維、ミネラルやビタミンB群を一緒に摂取することが重要です。
そうすることで血糖値の上昇を穏やかにするだけでなく、摂取した栄養をより効率的に脳や体内に取り込むことができます。
よく噛んで食べる
eスポーツの試合前は、緊張し交感神経が優位になることから、体は戦闘モードになります。
胃の消化活動は抑えられ、脳も興奮状態になります。そんなときには、通常の食事でさえ喉をとおらなくなってしまったり、摂取した食べ物で消化不良をおこしてしまう可能性があります。
そうならないためにも、一口15~30回噛むことで消化効率をあげましょう。よく噛んで消化を助ける唾液をたっぷりだしながら食べると、その次の消化吸収を担当する、胃液や膵液などの分泌も活発になります。また、よく噛むことで集中力がアップし、気持ちを落ち着かせることもできます。
まとめ
今回は、eスポーツの試合に役立つ栄養素やそれを含む食べ物、食べ方のポイントなどについて、管理栄養士に話を伺いました。
食事からバランスよく栄養素を摂取することが、脳を使うeスポーツにとって役立つことが分かったのではないでしょうか。
食事が体を作り、脳を動かすということを意識することはとても重要です。何が体に良いのか、明日の自分を脳と体を作るのか、どういう栄養素の組み合わせが栄養の吸収を促進するのかなど、少し難しいかもしれませんが、考えてみると意外と楽しいものです。
いきなり、すべての食事の栄養素をコントロールして自分で作るのは難易度が高いので、食事に対する意識から少しづつ変えていけたら良いと思います。食事の基本はバランスよく栄養をとること。そして食事から不足する栄養素は、サプリメントなどの栄養補助食品から摂取し補うことが理想です。
未来を担うスポーツとしてますます注目されているeスポーツ。老若男女問わず幅広いeスポーツ愛好者の方が、食をはぐくむ力「食育」を知り、長く健やかに活躍できると良いですね。
特定保健指導、企業にて学生や子供を対象とした食育指導、料理教室の調理員、食に関するイベントの企画アシスタントなどを務める。 eスポーツの栄養に関する執筆や食事指導のご相談ライター:AZUSA(管理栄養士)
現在は、栄養や食に関する執筆活動をしながら薬膳や発酵食品について研究中。eスポーツプレーヤーを栄養と食の面からサポートする記事をお届けします。